1.成年後見制度とその概要

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。

判断能力が不十分になった高齢者は、訪問販売などの巧みなセールストークに根負けして不本意にも契約をしてしまったり、場合によっては悪徳業者にだまされたりすることがあります。また、介護が必要になったり入院したりする場合、ご本人一人では種々の契約ができないこともあるでしょう。

こんなとき、その人のために、契約の取消ができたり(同意権・取消権)、その人に代わって入院契約等をしたり(代理権)する人が必要になります。
このように、既に判断能力が十分でなくなっている場合には、法律によって援助者を定めてご本人を支援する制度があり、この仕組みを法定後見制度といいます。法定後見制度では、ご本人の判断能力に応じて3種類の支援の類型があります。

それに対して任意後見制度は、ご本人の判断能力が十分なときに、将来、後見人になる人と支援を必要とすることがらをあらかじめ契約(公正証書)で決めておき、判断能力が不十分になってきたら、その契約を発効させ、支援してもらうものです。

判断能力に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの類型があり、
それぞれ補助人、保佐人、後見人を選んでもらい、その人たちが
本人を支援します。
                                      
 補助    判断能力が不十分
 保佐    判断能力が著しく不十分
 後見    判断能力が全くない(欠く常況)
                                      
将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ契約に
より、次のことを決めることができます。
                                      
@ 「誰に」(任意後見人)
A 「どんなことを支援してもらうか」(代理権の範囲)




 

2.法定後見制度

 

支援類型と支援内容
 


法定後見制度利用の要件である判断能力の程度については、医師の診断書や鑑定書をもとに最終的には家庭裁判所が判断します。判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの支援方法がありますが、補助の開始については本人の同意がなければできません。
それぞれの判断能力の目安は、おおよそ次のようになり(参考)、支援内容もその判断能力に応じて異なります。

■ 支援の種類と判断能力の目安
支援類型
(判断能力)
補助
(不十分)
保佐
(著しく不十分)
後見
(全くない)
日常生活に関すること できる できることもある ほとんどできない
自己財産の管理 できるかどうか危うい できない できない
重要な財産行為(※) 援助が必要な場合あり 常に援助が必要 自分でできない
症状の具体例 軽度の認知症症状
・家事の失敗
・消費者被害にあう
中程度の認知症症状
・日常生活に支障あり
認知症の症状は重い
・回復の見込みが薄い



■ 支援の種類と支援内容
支援類型 支援人の呼称 支援内容
補助 補助人 申立て時に本人が選択した特定の法律行為の代理権や同意権・取消権によって支援します。
保佐 保佐人 重要な財産行為(民法第13条第1項)については、申立てにより保佐人に同意権・取消権が与えられます。また、本人が選択した特定の法律行為の代理権や同意権・取消権を付与して支援することもできます。(本人の同意要)
後見 成年後見人 日常生活に関する行為を除くすべての法律行為を代わってしたり(代理権)、必要に応じて取り消します。
※ 後見制度は実際に介護をするというような支援ではなく、契約等の法律行為に関するものです。

■ 同意権/取消権と代理権について

同意権/取消権(補助人と保佐人)


【補助人】
補助人は民法第13条1項の行為の一部について、同意権を持ちます。ただし、同意権を補助人に付与するには申立て時に本人の同意が必要です。
補助人が同意権を持った行為については、補助人の同意なしに行われた契約が本人に不利益だった場合、補助人と本人はこの契約を取り消す(取消権)ことができます。

【保佐人】
保佐人は民法第13条1項の行為のすべてについて同意権を持ちます。したがって、保佐人の同意なしに行われた民法第13条1項の契約行為について、それが本人に不利益な契約だった場合、保佐人と本人はそれを取り消すことができます。



 代理権(補助人と保佐人)

 

補助人/保佐人の代理権は、申立て時に本人の同意が必要です。したがって、補助人/保佐人が代理権を持っている行為について、本人が1人で契約等を行っても、契約は無効です。



 代理権(後見人)



日常生活に関する行為以外の財産に関わる法律行為は、後見人の判断ですべて行われます。



 
重要な財産行為

【民法13条1項】
  1. 元本を領収し、又は利用すること
  2. 借財又は保証をすること
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
  4. 訴訟行為をすること
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 一定期間(第602条に定める)を超える賃貸借をすること。
※ 「元本を領収し、または利用すること」などの具体的な事項については、次の「家庭裁判所が定める特定の法律行為についての・・・」の中に記載されているので参考にしてください。

家庭裁判所が定める特定の法律行為についての補助の同意権とは

以下は、東京家庭裁判所の補助開始申立て用の同意行為目録です。同意を必要とする行為にチェックします。本人の同意を踏まえた上で、最終的に裁判所が決めます。なお、保佐の場合は「保佐開始申立」をすれば、自動的に下記の範囲について同意権/取消権が付与されます。

  1. 元本の領収または利用
    • 預貯金の払戻し
    • 金銭の利息付貸付け
  2. 借財または保証
    • 金銭消費貸借契約の締結(貸付けについては1または3にも当たる)
    • 債務保証契約の締結
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
    • 本人所有の土地又は建物の売却
    • 本人所有の土地又は建物についての抵当権の設定
    • 贈与又は寄附行為
    • 商品取引又は証券取引
    • 通信販売(インターネット取引を含む)又は訪問販売による契約の締結
    • クレジット契約の締結
    • 金銭の無利息貸付け
  4. 訴訟行為(相手方の提起した訴え又は上訴に対して応訴するには同意を要しない)
  5. 和解又は仲裁合意
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産分割
  7. 贈与の申込の拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込の承諾、負担付遺贈の承認
  8. 新築,改築,増築又は大修繕
  9. 民法602条に定める期間を超える賃貸借

家庭裁判所が定める特定の法律行為についての補助・補佐の代理権とは

以下は、東京家庭裁判所の保佐・補助開始申立て用の代理行為目録です。必要とする代理行為にチェックします。本人の同意を踏まえた上で、最終的に、裁判所が決めます。

  1. 財産管理関係
    (1) 不動産関係
    • 本人の不動産に関する取引(売却、担保権設定、賃貸、その他)
    • 他人の不動産に関する(購入、借地、借家)契約の締結/変更/解除
    • 住居等の新築・増改築・修繕に関する請負契約の締結/変更/解除
    (2) 預貯金等金融関係
    • 預貯金に関する金融機関等との一切の取引(解約/新規口座の開設含む)
    • その他の本人と金融機関との取引(貸金庫取引、保護預かり取引、証券取引、為替取引、信託取引、その他)
    • 住居等の新築・増改築・修繕に関する請負契約の締結/変更/解除
    (3) 保険に関する事項
    • 保険契約の締結/変更/解除
    • 保険金の請求及び受領
    (4) その他
    • 定期的な収入の受領及びこれに関する諸手続(家賃/地代、年金/障害手当金、その他の社会保障給付、その他)
    • 定期的な支出を要する費用の支払及びこれに関する諸手続(家賃/地代、公共料金、保険料、ローンの返済金、その他)
    • 本人の負担している債務の弁済及びその処理
  2. 相続関係
    • 相続の承認/放棄
    • 贈与、遺贈の受諾
    • 遺産分割または単独相続に関する諸手続
    • 遺留分減殺の請求
  3. 身上監護関係
    • 介護契約その他の福祉サービス契約の締結・変更・解除及び費用の支払
    • 要介護認定の申請及び認定に関する不服申立て
    • 福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約等を含む)の締結/変更/解除および費用の支払
    • 医療契約および病院への入院に関する契約の締結/変更/解除および費用の支払
  4. 登記/税金/訴訟
    • 税金の申告・納付
    • 登記・登録の申請
    • 本人に帰属する財産に関して生ずる紛争についての訴訟行為(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む.*保佐人又は補助人が当該訴訟行為について訴訟代理人となる資格を有する者であるとき)
    • 訴訟行為(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む)について,当該行為につき訴訟代理人となる資格を有する者に対し授権をすること
  5. その他
    • 以上の各事務の処理に必要な費用の支払
    • 以上の各事務に関連する一切の事項

*民法上,代理行為を特定するべきことになっていますので,「本人の不動産,動産等に関する管理・処分」といった包括的代理権の付与は許されません

同意権
本人がする契約などの行為に補助人/保佐人が同意することにより、法律的に効果が認められることになり、同意を得ないでした契約は取り消すことができます。

代理権
本人に代わって契約などの行為を成年後見人等がする権限をいいます。成年後見人等がした行為は、本人がした行為として扱われます


後見制度を利用することで、選挙権を失ったり特定の職業に就けなくなる場合があります。制限されること(具体例)については次のとおりです。
支援類型 補助 保佐 後見
制限事項 なし 職業に制限があります
(医師、公認会計士、税理士、弁護士、司法書士等や会社役員にはなれません)
・印鑑登録(抹消)
・職業に制限があります
(医師、公認会計士、税理士、弁護士、司法書士等や会社役員にはなれません)



 

成年後見人等について
 


成年後見人等に選任される人の7割くらいは、ご本人のご親族です。家庭裁判所への申立て時に成年後見人等の候補者がいる場合は記載します。家庭裁判所は様々な事情を審査した後、成年後見人等を選任します。したがって、候補者以外の第三者(司法書士、弁護士、社会福祉士など)が選任される場合もあります。また、親族等が成年後見人等になった場合に、家庭裁判所は成年後見人等の事務を監督する成年後見監督人等を職権で選任することもあります。

ご家族以外の第三者が選任されるケースでは次のようなことが考えられます。

  • 身寄りがいない。
  • 身寄りがいたとしても、何らかの事情で後見人になれないと言っている。
  • 親族間に経済的な争いを抱えている。
  • ご本人の財産を親族が勝手に使っている。

成年後見人に選任された人は、本人の心身の状態や生活状況に配慮(身上配慮義務)しながら、財産管理や介護契約、施設入所契約、入院契約等の必要な代理行為(身上監護)を行うことになります。そして、その遂行状況を定期的に家庭裁判所に報告する義務が生じます。

■ 後見人の職務
1.後見人が最初にすること
■ 後見人の資格を証明する「登記事項証明書」を取得する
■ 財産の調査、資産状況の把握
■ 銀行等金融機関、役所等へ後見届を行う
■ 就任後1ヶ月以内に、財産目録・年間収支の見込みを家庭裁判所に提出する

2.日常的にすること
■ 財産管理(預貯金通帳の保管、入出金の管理、振込み・払戻しなど)
■ 年金等や不動産賃料等の定期的な収入の受領や定期的な支出の支払い
■ 治療/加療等や福祉サービスに関する契約および必要な費用の支払い
■ 本人の生活状況や手当すべきことが生じていないかの見守り

3.日常以外の仕事
■ 被後見人等のために必要があれば、不動産の売却などを行う
■ 家の修繕などが必要な場合は施工業者などを手配する
■ 遺産分割協議をおこなったり、施設への入所契約、病院への入院契約をする
■ 税務申告や訴訟等があれば行う(難しい場合は、専門家に依頼することも可能)

4.最後にすること
■ 本人が亡くなったら、2ヶ月以内に財産目録を作成し、相続人、家裁へ報告する
■ 相続人への財産の引渡し等を行う
■ 成年後見等終了の登記をする

また、次のような人は成年後見人等にはなれません。

■ 欠格事由
  1. 未成年者
  2. 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
    ※成年後見人/保佐人/補助人を解任された人、親権や管理権の喪失の宣告を受けた人
  3. 破産者
  4. 被後見人に対して訴訟をし、またはした者並びにその配偶者および直系血族
  5. 行方の知れない者

 司法書士、弁護士、社会福祉士などが成年後見人等や成年後見監督人等に選任された場合は、本人の財産から報酬が支払われます。その報酬は、成年後見人等が家庭裁判所に「報酬付与の審判」を申立てることにより、家庭裁判所が報酬額を決定します。

審判確定と登記
後見等開始申立てがされると、家庭裁判所は様々な事情を考慮して審査します。その結果、後見等開始の審判をし、成年後見人等を選任します。審判がされると成年後見人等に家庭裁判所から審判書が送達されます。審判書が成年後見人等に届いてから2週間以内に、審判に対する不服申立てがされない場合に、審判の法的効力が確定します。
審判が確定すると、家庭裁判所は東京法務局に審判内容を登記してもらうよう依頼します。登記がされると家庭裁判所から成年後見人等に登記番号が通知されます。その登記番号により登記事項証明書を取得します。この登記事項証明書は成年後見人等の職務を行うときの証明書になります(必要に応じて、提示や提出を求められます)。



 

利用手順(申立〜審判)
 


法定後見制度を利用するには、医師の診断書をもとに、本人の判断能力の程度により、「補助」「保佐」「後見」のいずれかを選択し、家庭裁判所へ申立ての手続きを行います。

 家庭裁判所への申立て
  • 申立てが出来る人
    本人・配偶者・4親等内の親族等・市町村長など(補助の申立ては本人の同意が必要)
  • 必要な書類
    詳しくは次節の「申立てに必要な書類と費用」をご覧ください。
  • 申立て先
    本人の住所地の家庭裁判所

 家庭裁判所の審判
家庭裁判所は、後見等を開始してよいか調査し、必要と判断した場合、後見人等を選任します。審理期間は一般的に2〜4ヶ月ほどになります。
 
  • 調 査
    家庭裁判所調査官が事情を尋ねたり、関係者に問合せをしたりします。
  • 審 問
    必要がある場合は、審判官等が事情を尋ねます。
  • 鑑 定
    保佐と後見の場合は、原則として鑑定が必要です。ただし、診断書の記載内容により明らかな場合は省略されることもあります(費用は別途5〜10万円必要になります)。
  • 審 判
    以上の結果を踏まえ、審判官が後見等開始の審判をします。同時に、後見人等の選任をし、この審判内容は、申立人や後見人等に通知されます。

 審判の告知と通知
裁判所から告知があり、審判書謄本をもらいます。ただし、審判に不服がある場合は即時抗告ができます(2週間以内)。

 後見の開始
  • 支 援
    家庭裁判所が審判した内容に基づき、後見人等による支援がはじまります。
  • 監 督
    家庭裁判所は、後見人等を監督します。特に必要がある場合、後見監督人等も選任し、後見監督人等を通して監督します。

 



 

申立てに必要な書類と費用
 


成年後見制度を利用するためには申立てができる人や家庭裁判所の場所が決まっています。

■ 申立てができる人 → 本人、配偶者、4親等内の親族等、市町村長他
■ 申立てする家庭裁判所 → 本人(被後見人)の住所地の家庭裁判所

申立てに必要な書類と費用はおよそ以下のとおりですが、事案によって多少異なりますので詳しくは管轄の家庭裁判所にお聞きください。

■ 必要書類                          【裁判所のHPより】
書  類 説    明
1.申立書 家庭裁判所にあります。
2.本人に関する書類
 ・戸籍謄本
 ・戸籍の附票または住民票
 ・登記されていないことの証明書(※1)
 ・診断書(※2)
 ・財産に関する資料(※3)
(※1)本人が成年被後見人、被保佐人、被補助人、任意後見契約の本人とする記録がないことを証明するものです。法務局・地方法務局本局で取得できます。
(※2)家庭裁判所が定める様式のものを使ってかかりつけの医師等に作成してもらいます。
(※3)不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産税評価証明書)、預貯金および有価証券の残高がわかる書類(通帳写し、残高証明書等)等
3.成年後見人候補に関する書類
 ・戸籍の附票または住民票
 
※財産目録、収支予定表、事情説明書、親族関係図等、申請に必要な書類や様式は各家庭裁判所によって異なりますので下記のリンクでご確認ください

┣ 後見開始の審判(裁判所) → 「後見開始」
┣ 保佐開始の審判(裁判所) → 「保佐開始」
┣ 補助開始の審判(裁判所) → 「補助開始」
┣ 登記されていなことの証明書の取得について(法務省) → 「登記されていないことの証明申請」
┗ 各家庭裁判所へのリンク → 「各家庭裁判所」

■ 費用
種 類 項    目 費 用
収入印紙 ■後見開始の申立
 後見開始の申立

■保佐開始の申立
 保佐開始の申立

 保佐開始の申立+同意権追加付与の申立

 保佐開始の申立+代理権付与の申立

 保佐開始の申立+同意権追加付与の申立+代理権付与の申立


■補助開始の申立
 補助開始の申立+同意権付与の申立

 補助開始の申立+代理権付与の申立

 補助開始の申立+同意権付与の申立+代理権付与の申立

800円


800円

1,600円

1,600円

2,400円



1,600円

1,600円

2,400円
切手 各裁判所によって異なりますので問い合わせてください 3,000〜
5,000円
登記費用 成年後見制度では、審判内容を登記します
※収入印紙でおさめます
2,600円
鑑定費用 後見・保佐の場合は原則必要です。ただし、診断書により明らかな場合は不要です(費用は目安です) 5万円〜
10万円

【申立費用】
本人保護のためにする申立てですが、申立てにかかる費用は、原則、申立人の負担になります。本人以外の人が申立てた場合、本人の財産から支弁することはできません



 

3.任意後見制度


今現在は判断能力に問題はなく、将来、判断能力が十分でなくなった時、自分を援助してくれる人(任意後見人)とあらかじめ契約をしておき、将来に備えておくものです。

加齢にともない、判断能力が十分でなくなった時、今までのように自宅で生活をしたい、望んでいた施設に入りたい、病気になっても困らないようにしておきたい・・・など、自分の希望がかなえられるかどうかは判りません。そういった場合には、援助してくれる任意後見人を決めておけば安心です。

また、法定後見制度と異なり、後見人は契約で決まっているので、後見を開始したいときは、家庭裁判所に任意後見人を監督する「任意後見監督人」の選任を申し立てます。そして、任意後見監督人が任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的な報告をすることにより、問題が発生することを防ぐ仕組みになっています。

 

利用手順
 


任意後見制度は、@将来、後見してくれる人とまず任意後見契約を結び、判断能力が衰えてきたら、A家庭裁判所へ任意後見監督人の選任の申立てを行うという2段階の手続を行うことになります。判断能力の状態によっては、この2つを同時に行うことも可能です。

 後見人および契約内容を決める
任意後見制度では、契約時に本人と後見人との間で合意した特定の法律行為の代理権によって支援します(同意権・取消権による支援はありません)。
 
  • 支援してくれる人(後見人)を決める
    判断能力が不十分になったあと支援してくれる人を誰にするかを決めることは非常に重要です。十分検討し信頼できる人にお願いしましょう.
  • 契約の内容を決める
    後見が開始されると、結ばれた契約書に基づいて支援が行なわれます。できること、できないことなど、納得が行くまで話し合い、支援の内容を検討しましょう。

 任意後見契約を結ぶ
  • 公証役場で任意後見契約を結ぶ(公正証書を作成し、法務局に登記します)。
  • 後見してくれる予定の人を「任意後見受任者」と呼びます。
  • 費用:公正証書作成費用(1万1千円)とその他登記手数料を含めおよそ2万円

 任意後見監督人選任の申立て
  • 申立てが出来る人
    本人・配偶者・4親等内の親族等・任意後見受任者
  • 必要な書類
    詳しくは次節の「申立てに必要な書類と費用(任意後見)」をご覧ください.
  • 申立て先
    本人の住所地の家庭裁判所

 家庭裁判所の審判
以降、法定後見制度の成年後見人の審判と同様の手続が行われます。
 
  • 任意後見監督人選任の審判が行われます。
  • 審判後、任意後見受任者は任意後見人となり、職務を開始します。

「判断能力が衰えてきたら」について 
判断能力の衰えを感じてご本人が任意後見監督人の選任の申立てをしたり、まわりの人がご本人の判断能力の衰えに気づき、任意後見監督人の選任申立てにつなげてくれればよいですが、独居等の場合、身の回りにご本人の判断能力の衰えに気づく人がいない場合は、任意後見受任者と「見守り契約」や「財産管理等委任契約」を締結して備えることができます。定期的な面談等により心身の状態を見極め、ご本人の望んでいる生活ができるように代理行為をします。
見守り契約 定期的な電話連絡や面談等により本人の生活状況や健康状態を把握し、家庭裁判所に対する任意後見監督人選任の請求をすべきかどうか判断する
財産管理等委任契約 本人が病気や怪我等の場合、本人の生活や療養看護および財産管理に関する事務を代理して行う



 

申立てに必要な書類と費用(任意後見)
 


任意後見監督人選任の申立てに必要な書類と費用は次のとおりです。

■ 必要書類                             【裁判所のHPより】
書  類 説    明
1.申立書 家庭裁判所にあります
2.任意後見契約公正証書(写し)
3.本人に関する書類
 ・戸籍謄本
 ・登記事項証明書(※1)
 ・診断書(※2)
 ・財産に関する資料(※3)
(※1)任意後見契約を証する登記事項証明書
(※2)家庭裁判所が定める様式を使ってかかりつけの医師等に作成してもらいます。
(※3)不動産登記事項証明書、預貯金および有価証券の残高がわかる書類(通帳写し、残高証明書等)、保険証券の写し等
4.任意後見監督人候補者に関する書類
 ・戸籍の附票または住民票
 
※申請に必要な書類や様式は各家庭裁判所によって異なりますので下記のリンクでご確認ください

┣ 任意後見監督人選任の審判(裁判所) → 「任意後見監督人選任」
┗ 登記事項証明書(※1)の取得について(法務省) → 「登記事項証明申請書(PDF)」

■ 費用
種 類 項    目 費 用
収入印紙 任意後見監督人の申立 800円
切手 各裁判所によって異なります 3,000〜
5,000円
登記費用 任意後見制度では、審判内容を登記します
※収入印紙でおさめます
1,400円
鑑定費用 原則として鑑定は不要です.ただし、必要に応じて鑑定を要することがあります(法定後見開始が必要な場合など). 5万円〜
10万円



 

任意後見人の職務
 


本人の意思を尊重し、その心身の状態や生活の状況に配慮し(身上配慮義務)、本人の生活や療養看護、財産管理に関する法律行為を代理して行います。

任意後見人の職務の具体例として、次のようなものがあります。
1.日常業務として
■ 財産の管理事務として、預貯金の管理・振込依頼・払戻し、口座の変更・解約など
■ 定期的な収入の受領および定期的な支出を要する費用
■ 介護・福祉サービスの費用の支払い
など多々あります。

2.日常業務以外の業務として
■ 所有不動産に関する売買契約・賃貸借契約・修繕の請負契約の締結
■ 保険契約の締結・変更・解除および保険金の受領
■ 税金の申告・納付

上記のように、必要に応じて代理権の範囲を決めておきます。  



 

居住用不動産の処分について


成年後見人の大事な職務の一つは財産管理で、財産に関する法律行為については包括的な代理権が与えられています。ただし、本人の意思を尊重する趣旨から、本人の居住用不動産(建物と敷地)の処分(売却等)については、家庭裁判所の許可が必要になります(民859の3)。

■ 居住の用に供する建物とその敷地とは、どのようなものか?
現在居住している場合はもとより、居住する予定がある建物とその敷地を含みます。現在は老人ホームに入所していても、入所前に住んでいた自宅は「居住用不動産」に該当します。

■ 「処分」とは具体的にどのような行為か?
売却のみならず、賃貸、賃貸借の解除、抵当権等の設定などがあります。
たとえば、借家に住んでいたがその後老人ホームに入所する場合に、借家契約を解約するときには、家庭裁判所の許可が必要になります。

■ 家庭裁判所の許可を得ずに不動産を売却した場合は、どうなるか?
許可を受けずに売却した場合は、その売買行為は無効になります。

■ 家庭裁判所の「居住用不動産の処分許可」の申立てはどのようにするのか?
申立てについては、裁判所のサイトをご覧下さい。
申立てに際しては、売買の相手方(買主)と売買金額が確定してから申立てる必要があり、仮契約書や契約書案の提出を求められます。通常は約1ヶ月程度で許可がおります。

■ 保佐や補助の場合も「居住用不動産の処分許可」が必要か?
保佐の場合は、被保佐人の処分行為は取消しの対象になっているので、居住用不動産の売却等には保佐人の同意が必要です。補助の場合も、居住用不動産の処分が取消権の対象ならば補助人の同意が必要となります。ただし、同意するために家庭裁判所の許可はいりません。
保佐人、補助人に付与された代理権の中に居住用不動産の処分がある場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。

┣ 居住用不動産の処分許可申立てについて → 「居住用不動産処分許可の申立書」





 
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