4.遺言の方式


遺言の方式には、普通の方式(3種類)と特別の方式(4種類)があります。

■ 普通の方式
  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言
■ 特別の方式
  • 危急時遺言(死亡危急者遺言・船舶遭難者遺言)
  • 隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言・在船者遺言)

 

自筆証書遺言
 


自ら手書き(自書)で全文、日付、氏名を記載し、押印して作成します。ただし、財産目録についてのみ、パソコン等で作成した目録や銀行通帳のコピー、不動産登記事項証明書のコピー等を目録として本文に添付して遺言を作成することができます(2019年1月13日より適用。それ以前の遺言日付のものはコピー等は不可)。
 
また、2020年7月10日より自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に保管することで、遺言の紛失や死後に発見されないなどの問題を防ぐことが可能になります。


■ 長所と短所(自分で保管する場合)
長所
  • 他の人に知られず、費用もかからないこと
  • 文字が書ければ、いつでも、どこでも作成が可能
短所
  • 家庭裁判所の検認手続が必要
  • 発見されない、偽造/改竄等のおそれがある(保管に注意が必要)
  • 内容が曖昧な場合、効力が問題となる
  • 訂正方法が厳格で難しい

法務局が自筆証書遺言を保管するにあたっては、A4サイズの紙の使用などの基本的な様式がありますが、保管を目的とするだけで、遺言内容の有効性などの審査が行われる訳ではありません。
 
■ 法務局(遺言書保管所)で保管する場合の留意点
  • 保管申請は本人自身が法務局(遺言書保管所)で行わなければならない(代理人は不可)
  • 保管には費用が必要
  • 保管可能な法務局(遺言書保管所)は遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産所在地のいずれか
  • 遺言は封をしない(内容を電子的に記録するため)で提出するが、内容の有効性はチェックされない
  • 遺言の保管を撤回することは可能であるが、保管を撤回してもその遺言の効力を失う訳ではない
  • 保管してから氏名や住所等が変更になった場合は届け出が必要になる
  • 遺言内容が変更になった場合、その都度本人が法務局で手続きを行う必要がある
  • 相続開始後の家庭裁判所での検認手続きが不要

遺言書保管所が設置される法務局、申請方法などの詳細は次のリンク先を参照してください。
 
┣ 自筆証書遺言の法務局(遺言書保管所)での保管について → 「遺言書の保管」 
 
 
遺言書の法務局(遺言書保管所)での保管
遺言の保管・撤回・変更の申請は本人が法務局に出向く必要があり、代理人による申請は認められていません。遺言内容を書き換えたいなどの場合、もし病気などの理由で法務局に行けないとどうなるのでしょうか?
ご自分で遺言を書き換えた場合は、前の遺言書の保管を撤回して遺言書を新たに法務局に保管するのが良いことは言うまでもありませんが、病気などの理由でその手続きが出来なくても、新しい日付の遺言書が有効になります。法務局は遺言書の保管場所であり、遺言内容の有効性や遺言の効力そのものには関係ないからです。ただし、そのような場合には、後のトラブルを避けることためにも、新しい遺言書に前の遺言書は撤回する旨を記載しておくと良いかもしれません。
また、遺言書は書いたけれど、持っていた不動産を生活のために売却して現金化してしまったなど、財産内容(財産目録)に変更が生じる場合がありますが、これ自体は遺言内容の変更にはあたりません。相続開始時にその財産が存在しなければ、相続財産の対象にならないからです。
 
 
■ 自筆証書遺言の書き方と注意点
 1.書き方、用紙、筆記具、文字等
  • 全文手書き(全文・日付・署名)
  • 本文はパソコンやワープロで作成したものは無効です
  • カーボン紙を挟んで自書したものは有効です
  • 財産目録はパソコン等で作成し添付することも可能。ただし各項に署名押印(2019年1月13日より)
  • 病後などのように、手の震え等の理由で運筆を助けてもらった(添え手)場合に、必ずしも「自書」を否定されるわけではありませんが、添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡の上で判定される必要があります(最判昭62年10月8日)
  • 用紙について規定はありませんが、下書きと思われるようなものは避けましょう
  • 複数枚にわたるときは、ホチキス、のり等で綴じて、契印を押します
  • 筆記具は何でも構いませんが、鉛筆は改竄されるおそれがあるので万年筆、ボールペン、筆等を使用
  • 横書き、縦書きどちらでも構いません
  • 数字は漢数字、アラビア数字(1,2,・・)多画文字(壱、弐・・)どれでも構いません
 2.日付について・・・作成時、満15歳以上でなければなりません
確定できる日付ならよいとされていますが、西暦や元号を用いて、具体的に書きましょう。「平成○○年○月吉日」と書かれていた場合、有効な日付がないとして無効となります。前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。また、被相続人が遺言を書いた後、その財産を処分したり破棄したときも同様です。つまり、日付は遺言が撤回されたかどうかの基準にもなります。
 3.押印とその箇所
押印およぶその箇所については、使用する印は実印でなく、認め印でも構いません。また、指印(拇印のほか、指頭に墨や朱肉をつけて押印すること)も認められています。押印箇所は必ずしも自署した氏名の下でなく、遺言書を入れた封書の封印でもよいとされています。
 4.内容訂正
内容を訂正する場合、訂正前の字がわかるように抹消して、その横に訂正部分を書き直して、押印します。また、どの字をどのように変更したかを遺言書の余白に記し、そこに署名します。訂正には厳格な方法が定められており、訂正するよりは初めから書き直すほうが良いでしょう。
 5.封をする
封筒に入れるかどうかは自由ですが、遺言書を封筒に入れて封をし、表に遺言書と書いておくことをお勧めします。死後、見つけてもらわなければ困りますし、内容を知られてしまうと廃棄されて遺言書を書いた意味がなくなってしまう可能性もあります。法務局に保管する場合は封をしないで保管の申請を行います。 
 6.その他
2人以上の連名で遺言書を書くことはできません(共同遺言の禁止)。たとえ、夫婦でも別々に書く必要があります。

■ 自筆証書遺言の家裁への検認手続について
遺言書(公正証書による遺言を除く)の保管者や遺言書を発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」の申立をしなければなりません。また,封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。申立を怠ったり、勝手に開封すると5万円以下の過料に処せられることがあります。

検認とは,相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせ、遺言書の形状,加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続であって、遺言の有効・無効を判断するものではありません
したがって、遺言の無効(遺言能力が欠けていた、本人の意思で書かれたものではない、遺言者が書いたものではない等)を主張する場合は、訴訟手続による必要があります。

遺言の執行をするためには,遺言書に検認済証明書が付いていることが必要です。
※検認済証明書の申請は、遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要です。

■ 遺言書の検認手続
 申立人
  • 遺言書の保管者
  • 遺言書を発見した相続人
 申立先
  • 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所
 費用
  • 遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円
  • 連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください)
 必要な書類
  • 申立書1通
  • 申立人,相続人全員の戸籍謄本各1通
  • 遺言者の戸籍謄本
    遺言者の出生に遡るすべての戸籍と相続人を確定させるために必要なすべての戸籍(代襲、第二・第三順位の相続人との関係が証明できる戸籍謄本等)各1通
  • 遺言書の写し(遺言書が開封されている場合)

※事案によっては,このほかの資料の提出を求められることがあります。

 
┣ 遺言書の検認手続の詳細について → 「遺言書の検認」

遺言の解釈(判例)
自筆証書や秘密証書による遺言については、遺言者の意思を判断するのに窮する場合も考えられます。そのような場合には、遺言者の真意を探求すべきものとして、次の判例があります。
「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である」(最判昭58.3.18)



 

公正証書遺言
 


公証役場にて、証人2人以上の立会いのもと、公証人に作成してもらうもので、原本が公証役場に保管されるため、自筆証書遺言より安全・確実な方法といえます。

■ 長所と短所
長所
  • 公証人が遺言者の意思を確認しながら作成 → 効力を争われる危険が少ない
  • 家裁への検認手続が不要
  • 遺言者が自筆する必要がないので、障害を有する人でも利用しやすい
  • 公証役場へ出向くことができない場合は、公証人に出張してもらうことも可能
短所
  • 公証人への手数料が必要
  • 遺言の内容を知られたくないときは不向き(公証人や証人には知られます)

■ 作成方法
作成方法 ■ 通常の場合
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、その遺言者の口述を公証人が筆記します(実際には、事前に公証人と遺言者が遺言の内容について打ち合わせをしておきます)
  • その筆記したものを公証人が遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させ、筆記したものが正確なら遺言者と証人が署名・押印します
  • 最後に公証人がこのような方式にしたがって作成した旨を付記して、署名・押印します。

※遺言者が署名できないときは、公証人がその事由を付記して、署名に代えることが可能です
■ 遺言者が言語機能障害者(口がきけない人)の場合
「口授」に代えて通訳人の通訳(手話通訳等)による申述または「自書」(筆談)で公証人に伝える
■ 遺言者または証人が聴覚機能障害(耳が聞こえない人)の場合
公証人は「読み聞かせ」に代えて、「通訳人の通訳」または「閲覧」により、筆記した内容の正確性について確認することが可

公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言の作成費用は、遺言の目的たる財産の価額に対応して、その手数料が次のとおり定められています。                    【日本公証人連合会HPより】
目的財産の価額 手数料
●〜1億円
        100万円まで
        200万円まで
        500万円まで
       1,000万円まで
       3,000万円まで
       5,000万円まで
          1億円まで
●1億円を超える部分については
  ・1億円を超え3億円まで5,000万円毎に
  ・3億円を超え10億円まで5,000万円毎に
●10億円を超える部分については
  ・5,000万円毎に
がそれぞれ加算されます。

5,000円
7,000円
11,000円
17,000円
23,000円
29,000円
43,000円

13,000円
11,000円

8,000円
上記の基準を前提に,具体的に手数料を算出するには,下記の点に留意が必要です。
  1. 財産の相続または遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し,これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
  2. 遺言加算といって、全体の財産が1億円未満のときは、上記@によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。
  3. さらに、遺言書は、通常、原本、正本、謄本と3部作成し、原本を公証役場に残し,正本と謄本を遺言者にお渡ししますが、これら遺言書の作成に必要な用紙の枚数分(ただし、原本については4枚を超える分)について、1枚250円の割合の費用がかかります。
  4. 遺言者が病気または高齢等のために体力が弱り公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、ご自宅、老人ホーム等に赴いて公正証書を作成する場合には、上記@の手数料が50%加算されるほか、公証人の日当と、現地までの交通費がかかります。
  5. 公正証書遺言の作成費用の概要は、ほぼ以上でご説明できたと思いますが、具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となる場合もあります。しかし、あまり細かくなりますので、それらについては、それが問題となる場合に、それぞれの公証役場で、ご遠慮なくお尋ね下さい。



■ 証人の関与
証人を関与させることは、遺言書が真実に成立したものであることを証するためです。自筆証書遺言以外はすべて証人が必要とされ、証人には欠格事由があります。欠格者に該当する証人が立ち会った場合は、遺言が無効となります。

証人の欠格事由
  1. 未成年者
  2. 推定相続人および受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

遺言登録検索制度の利用方法
公証人役場では公正証書遺言のデータ(遺言者の氏名・性別・生年月日・役場名・作成年月日)が登録されていて、利害関係人の請求により検索することが可能です。複数の遺言が作成されている可能性があるなら、利用されるとよいでしょう。どこの公証役場でも照会が可能で、手数料は無料です。次の書類を用意し、公証役場でデータ検索利用の申請を行います。

■ 遺言者死亡の事実を証するもの・・・戸籍謄本等
■ 照会者が相続人等の利害関係人であることを証する書面

┣ 公正証書遺言の作成費用や検索方法については → 日本公証人連合会



 

秘密証書遺言
 


公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して、遺言があることは明らかにしても、内容は秘密にしておくことができます。

■ 長所と短所
長所
  • 遺言書自体は自書でなくてもよく(パソコンやワープロで作成したものでも、点字や代書も可)、遺言者の署名(これは必ず自署)と押印は必須
  • 秘密証書遺言としての要件を欠いても、自筆証書遺言の要件を充たせば自筆証書遺言として有効
  • 遺言者の遺言であるかどうかの争いが避けられます。
短所
  • 家庭裁判所の検認手続が必要
  • 費用がかかる(公正証書遺言に比べて安い)
  • 公証人は遺言書の保管をしないので、遺言者が保管

■ 作成方法
作成方法
  • 遺言者が遺言書に署名と押印をし、それを封じ遺言書の押印と同じ印章で封印
  • 遺言者が公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出します
  • その遺言書が自分のものであることと自らの住所と氏名を申述します(ただし、代書の場合は筆記者の氏名と住所も申述します
  • 公証人が、遺言書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者、証人と共にこれに署名し、押印します



 

特別の方式の遺言
 


「特別の方式」とは、生命の危機に瀕していたり、伝染病等で隔離されているような特別な状況におかれた場合の遺言の書き方(方式)を定めたもので、危急時遺言(死亡危急者遺言・船舶遭難者遺言)と隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言・在船者遺言)があります。

一般的なものではありませんので、概略だけで書き方等については省略させていただきます。

■ 死亡危急者遺言 疾病その他の事由による死亡の危急時
■ 船舶遭難者遺言 船舶が遭難し、船舶中で死亡の危急に迫った場合
■ 伝染病隔離地遺言 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にいるとき
■ 在船者遺言 船舶中にいる場合



Copyright(C) 司法書士 山口悦子 All Rights Reserved.